もし万年筆を初めて手に入れたという人がいたら、まずは調整を受けることをおすすめします。
調整を受けるメリットは後ほど詳しく紹介しますが、なんといっても自分の手や書き方のクセに合わせてくれる→その結果使い勝手が向上する、という点が一番大きいと思います。
この調整。なんとペンクリニックというイベントに参加すれば、ほとんどのところで無料です。費用がかからないなら、一度受けてみたくなりませんか。
もちろん、お店から買ったそのままの状態でも書けはします。けれども調整を受けることで、自分の手に最適化ができるんです。たとえば「野外スケッチ用に立て気味で描いてもかすれないようにしてほしい」というリクエストも可能。
最初は敷居が高いように思われるかもしれませんが、ぜひ勇気を出して足を運んでみてください✨️ 万年筆の新しい一面を知る機会になると思います。
初心者さんには無料のペンクリニックがおすすめ
万年筆の調整には有料と無料のものがある
初めての人は、まずは無料で調整を受けられる「ペンクリニック」に参加してみるのがオススメ。無料と言えども、万年筆の洗浄から簡単な調整(インクの出を良くする、かすれを解消など)は十分対応してくれます。
その上で「もう少し時間をかけて調整をお願いしたい」「マニアックな調整をお願いしたい」と思うようになったら、有料調整も検討してみましょう。何度かペンクリを経験してからの方がやり取りの上でも失敗しにくいからです。
この記事でもまずはペンクリニックを優先として紹介しています。
ペンクリニックとは
ペンクリニック(※以下ペンクリ)とは、「万年筆の病院」といった意味合いのイベントです。
万年筆に問題がないか定期検診や洗浄を行い、問題があれば治療ならぬ調整をしてもらえます。また初心者さんにとっては万年筆の扱い方などの知識を学ぶ場にもなっています。
しかもこのペンクリ、ほとんどの開催において参加費用は無料です。万年筆を販売している文具店や書店において、万年筆の販促イベントの一環として開催されています。
開催情報の見つけ方
ペンクリがいつどこで開かれるか。開催情報は各万年筆メーカーやショップが出しているので、公式サイトを見て確認します。
「ペンクリニック 東京」といったキーワードでネット検索すると、過去の開催情報がわかるかと。一度やったところはまた数カ月後や翌年に開催する可能性が高いです。近くのお店があれば、まめにチェックしてみましょう。
以下のブログ記事では、主要なペンクリ開催ショップ・メーカーをリストにしてまとめてくれています。こちらも参考にされてみてください。
X(Twitter)などのSNSを利用している人は、「ペンクリニック 6月(※行きたい月)」のように検索すると最新情報を見つけやすいです。私も行きたい時はXで検索して情報を見つけています。
予約~参加まで
ペンクリは基本的に予約制です。すぐ埋まってしまうこともあるので、情報を見つけたらその日のうちに予約を入れましょう。
万年筆内のインクは入れたままでいい、と言われるところが多いかな。ケースバイケースだと思うので、予約の際に確認してみてください。
当日の持ち物は特に指示されなければ、万年筆だけでOKです。
ペンクリ当日の流れ
約束した日時になったら、予約で指示された場所へ行きます。
ペンドクターさんが先にいらしているので、まずは困っている内容を伝えます。
例:「最近紙に描く時、ニブがひっかかるような感じがして。調整してほしいのですが」
「初めての万年筆を買ったばかりなんです。よくわからないので、とりあえず持ってきました」など
あとはドクターさんの方で道具を取り出して万年筆を調べたり、必要に応じて洗浄や調整をしてくれます。その手元を眺めているだけでも、プロの業が見られて興味深いです✨️
特に何も訊くことがなければ、「インクや万年筆でドクターさんのおすすめってありますか」という質問もグッド。ペンドクターさん自身、万年筆やインクについてマニアな方が多いからです。喜んでおすすめを教えてくれると思います。
初心者さんで万年筆になれていない方であれば、まずはお手入れの仕方をぜひ聞いてみてください。
調整や洗浄をしてもらったら、「これでいいか試しに書いてみてください」と万年筆を返されます。試筆用紙がおかれていますが、手持ちの紙で試したい場合は一言断った上で試してみましょう。
私もいつもの野外スケッチスタイルで描けなければ意味がないので、持参したバインダーで紙を傾けた状態での筆記を必ずチェックします。
どんな時に万年筆を調整してもらうのか
購入した直後
ペンクリニックのお世話になりたいのが、まず万年筆の購入直後。
格安のものは比較的個体差が大きいです。ハズレを引いてしまうと初期状態がよくないので、ぜひ調整してもらいましょう(それでも結局だめというものもありましたが^^;)
もし製品に問題がなくても、自分の手のクセに合わせて調整してもらうという意味で初回調整はおすすめです。
私が初めてペンクリに参加した際は、TWSBIをスケッチ用に紙を立てた状態でも描きやすいよう調整していもらいました。この調整がドンピシャの大当たり!
ただ描くだけでも気持ちいいので、どんどんスケッチする→上達が早まるという好循環のきっかけになりました。
万年筆の調子が悪い時
「インクが前より出にくくなった」「文字や線がかすれる」
そんなとき修理の文字が頭をよぎりますが、まずは一度ペンクリへ持ち込んでみましょう。案外ちょっとの調整で直ってしまうこともあります。
ペンクリニックは文具店で開催されているケースが多いです。万が一修理が必要となっても、ペンドクターやお店を通じてスムーズにメーカーへ引き継いでもらえます。
定期検診を受けたい時
長年使うとどうしても汚れがたまってきます。私もインクを入れ替える際に水で洗っていますが、個人のやり方ではどうしても限界があります。
また描き方のクセや筆圧によってニブが変化し、以前と書き心地が変わってしまうことも。
特に問題を感じていないくても。近所でペンクリの開催があったら、定期検診の感覚で診てもらうのもありです。
万年筆も人間と同じ。長く元気に活躍してもらうためには、定期的な健康チェックがかかせません。
ペンクリニックに参加するとメリットがいっぱい
またペンクリに参加することで、こんなメリットもあります。
- 万年筆のお手入れ法を知ることができる
- 自分の手のクセを教えてもらえる
- 万年筆について気になってることを質問できる
- おすすめの万年筆やインクを試せる(※ケースバイケース)
万年筆のお手入れ法を知ることができる
万年筆にはお手入れが必要らしい。そんな話はどこかで聞いたことがあると思います。
でも具体的にどうすればいいのか、最初から知っていた人は少ないのでは? また購入時の箱に入っていた紙に説明が書かれていたけれど、実行して壊さないか不安でやっていないという方もいるのでは。
そんな方はぜひペンクリでお手入れの仕方を聞いてみてください。万年筆ごとに若干お手入れの仕方が変わりますが、そこも踏まえて教えてくれます。逆にこれ以上は個人でやらないほうがいい、という範囲も教えてくれます。
中には、自家製のお手入れ書をペンクリ参加者に配布しているペンドクターさんもいました。
自分の手のクセを教えてもらえる
ペンドクターさんは万年筆そのものだけでなく、それを扱う人の手にも詳しい知識があります。
片側に重心が寄っている、など自分では気づかなかったクセをペンクリの場で指摘されることも。
筆圧が強すぎる人もニブに負担をかけにくい書き方を教えてもらえます。
また、パイロット社のペンクリでは筆圧測定も行っています(ペンクリとは別申込みが必要になる場合も)。気になる方は一度チェックしてもらうといいかもしれません。
万年筆について気になってることを質問できる
万年筆を使っていると、いろいろ気になることが出てきませんか?
私はこんなことが気になりました
- フローが良いインクメーカーはどこか
- 万年筆と相性の良い紙はどれか
- 金ペンは鉄ペンより描き味がよいのか
- 顔料インクの扱いは難しいか など
ペンドクターさんが調整をしてくれている間、そんな日頃気になることを質問しながら待つというのがペンクリの定番です。ペンクリはプロから万年筆の知識を学ぶ場でもあるのです。
おすすめの万年筆やインクを試せる(※ケースバイケース)
ペンドクターさんによっては、調整の待ち時間用におすすめの万年筆やインクを持参されています。
私もパイロット社のペンクリを受けた時、同社の万年筆であるキャップレスとフォルカンを待ち時間にどうぞ、と貸してもらいました。万年筆をスケッチに使ってるとお話したので、その用途に向いている2本とのことでした。
これが、今も手元にあるキャップレスとの出会いです。パイロットさんのペンクリはとても良い営業の場になってると思います(笑)。
ペンドクターさんのおすすめで新しい万年筆やインクに出会った、というエピソードは多いですね。
有料調整~パイロット本社の場合
さて。ここまでは無料調整:ペンクリニックを紹介してきました。ここからは有料調整についてお話したいと思います。
先日パイロット製キャップレスの調子があまりに悪かったので、有料調整に持っていってみました。
パイロット社は本社で有料の対面調整サービスを提供しています。対象はパイロットで製造された1,100円以上の万年筆です。今回はこちらを利用しました。
すでに何度かペンクリで診てもらっていたものの、改善の傾向が見られなくて。一度本家でしっかり診てもらおうと考えた次第です。
有料調整の流れ
所要は50分ほどでした
内訳は、
・洗浄:20分
・調整:30分
といったところです
調整→試筆を繰り返し、こちらがOKサインを出したところで終了となります。作業内容自体はペンクリと変わりません。
私はかなり粘って「あともう少し、なんとかなりませんか?」を繰り返していたので、実際はもっと短い人の方が多いのではないかと思います(ごめんなさい)
無料調整とここが違う
急ぎで直してもらえる
ペンクリは毎週のように開催されてるイベントではありません。そのため、急ぎで直したいと思っても都合よく開催がなければアウト。
ちなみに。今月都内で開催されるペンクリは、上旬時点ですでに予約がいっぱいでした。無料でなんとかしようとしたら、一ヶ月以上待つことになったと思います。
時間をかけて洗浄してくれる
ペンクリニックにおける洗浄は、だいたい数分程度ですぐ終わっていたと思います。
パイロットでは、「洗浄に2・30分かかりますが、よろしいですか?」と聞かれてビックリ。そんなに洗うところあるかな(いちおう前日に洗える限りは洗ってきた)と内心思っていたのですが、あとで聞いたらかなり内部が汚れていたとのことでした。
キャップレスは機構が特殊(ノック式でニブがほんの一部しか見えない)。無料のペンクリで、奥の奥まで洗うような洗浄は時間がなくて無理だと思います。贅沢に時間を使って洗浄してくれるのは有料調整ならでは。
納得できるまで、何度でも再調整をお願いできる
ペンクリの場合、ひとりの持ち時間が限られています。10分、長くても20分以内かと。そのため基本的には「フローを良くしてほしい」などスポット的な改善のお願いで終了となります。
――あともう一歩踏み込んで調整できないかな。
そういえば、あそこも気になったんだっけ。
という場面で、「追加でお願いします」とは言いにくい……。
次の人も待っていますし、そもそもペンクリニックとは善意に基づくイベントなので、あまり無理を言うべきでもないと思うからです。
その点有料調整ならば、お客の側も要望を出しやすいし、ペンドクターさん側でもその覚悟でいます(たぶん)。
こちらの要望をくみとってもらいやすい
有料調整は十分な時間があります。
私のように人とのコミュニケーションが苦手な人間にとって、時間をかけてドクターさんと話せる環境はありがたかったです。説明不足でうまく要望が伝わらない場面があっても、その都度伝え直すことができるからです。
短時間のペンクリだと、やはり伝えきれない部分がどうしてもあるんですよね。
「あそこをもっとああしてほしかったんだけれど、最初の話伝わってなかったかな……。まぁ無料だし、いいや」となってしまいがいち。
疑問点もゆっくり質問できます。帰ってから「あ。あれも聞いておけばよかった」がありません。
その意味では気持ちの満足度も高いです。
マニアックな領域の調整も受けることができる(※未確認サービス)
今回有料調整を担当してくれたのは、本社で修行中というドクターさんでした。そのため、師匠という方がたまに「様子はどうだ?」とのぞきにきていました。
キャップレスの不調は「以前より筆圧がないと描けなくなった(繊細な描写が不可に)」「方向により線のかすれがひどい(線にすらならない)」という2点。
おふたりのドクターとも「EFのニブなら仕方ない」と度々こぼしていましたが、購入から一年ほど――私が机から落とすまでは問題なかったんですよね……。そんなわけでかなり粘って調整していただいた次第です。
担当のドクターさんが穏やかでやさしい方でかなり頑張っていただいたのですが、「物理的に不可能なんだろうな……」というのがたまに覗いている師匠の様子でもわかりました。
それでも繰り返しの調整で、ベスト期の80%くらいまでは回復してもらえました。まったくスケッチに使えなかった状態からすれば、十分な成果です。
そこで終了を申し出たわけですが、ドクターさんからは希望すれば師匠にも調整してもらえるとの提案がありました。
もうすでに一時間近くここにいて、価格以上のことは十分やってもらっています(←何度ダメ押ししたのかわからない)。
この先は、基本的には不可能とされるところを捻じ曲げていく作業になると推察されました。
「万年筆の個性を壊すような調整はすべきじゃない」
一番最初にペンクリで出会ったドクターさんからそう教わっていたこともあり、これ以上の調整を希望する気にはなりませんでした。あとはもう机から落とした私の責任として、今のキャップレスを使っていこうと思います。
けれどももしお願いしていたら、どんな感じになったろうだろう? 匠の世界の深淵をのぞけたかもしれない。今頃になって気になっています(笑)。
お気に入りのペンドクターさんを探そう
以上、無料調整:ペンクリニックと有料調整についてまとめてみました。
正直、ペンドクターさんとの相性も調整の結果に大きく影響すると思います(※受ける人間も万年筆も含めて)。
ペンクリニックでも「素晴らしすぎて、無料なのが申し訳ないっ……!」と感じる出来栄えの時もあれば、「うん、こんなものかな」という時もあります。
調整って、受けたその場では良し悪しがはっきりわからなくて。しばらく使ってから初めて「あの時の調整がよかったんだ」と気づくことが多いです。今回有料調整を担当してくれた、修行中というIさんもかなり良かった。
ぜひとも様々なペンドクターさんと出会い、お気に入りの方を見つけてみてください。個々人万年筆やインクに対する哲学のようなものがあり、調整中にお話を伺うのも楽しいです。
ペンクリに関するよくある質問
最後に補足として。ペンクリニックに関するよくある質問をまとめておきます。
開催の何日前までに予約すればいい?
最近は以前より開催数が減ってしまい、その分予約も早く埋まるようになっています。この前は10日前の電話でもう予約がいっぱいでした。それまでは一週間前でも予約できたのですが。
情報を見た時点ですぐ予約してしまうのが最善です。ペンクリは一度逃すと、次は何ヶ月後になるかわかりません。
万年筆は何本診てもらえるの?
1本、または2本という制限があるところがほとんど。開催が減ってからは一本のところが増えた気がします。開催告知に必ず明記があるので確認を。
パイロット社など、メーカー主催のペンクリに他社の万年筆持ち込みはOK?
告知にお断りの明記があったり、よほど特殊な機構の万年筆でもないかぎりはOKです。
私はTWSBIを使っていますが、パイロット社のペンクリでも診てもらえました。メーカーが違っても万年筆の構造は似たりよったりですしね。
予約の際に万年筆のメーカーを聞かれると思います。もし特殊なものをお持ちでしたら、メーカー名を伝えた際に大丈夫かどうか聞いてみてください。私も初回参加時こそ確認しましたが、2回目からは特に聞いていないです。
でもパイロットのキャップレス(※ノック式万年筆)はやや特殊なので、まだ同社のペンクリ以外に持ち込んだことはないですね。
同時期にペンクリの開催が複数ある。どんな観点で選べばいい?
開催数が多い都市部だと「今月3箇所でペンクリがある!」なんてことも。
ペンクリ終了時にもらう書類には、ドクターさんの名前が入っています。個人的にとても良いと感じる調整をしてくれたペンドクターさんの名前・所属会社は必ず覚えておきましょう。
特にお気に入りのドクターさんがいなければ、家から最も距離が近い、日程的に都合が合う、この2つを踏まえて予約しています。
しばらくペンクリの開催がない。インク詰まりは自分で直せない?
以前万年筆のイベントに参加した時、お手入れ講座で洗浄剤が紹介されていました。
これを使えば、水で落とせない詰まりもだいぶ溶かせるそうです。頻繁に使うものではなく、たまに年一回のお手入れとか、詰まってしまった時に使うのがいいというお話でした。
付属するスポイトのサイズがメーカー等により変わるだけで、洗浄液自体はどの万年筆にも使えます。たとえばこれはプラチナ社から出ているもの。
「有料の調整へ持ち込む前に自分でなんとかしてみたい」という方はまず洗浄液で洗ってみるといいかも。通販ならすぐ届いて、すぐ試せますしね。
格安の万年筆やオークションで買った中古でもいいの?
私自身が持ち込んだ最安値の万年筆は3千円程度のものでした。千円程度のものでも問題なく診てもらえたという話はSNSでたまに見かけます。問題はないはずです。
オークションで買った万年筆の持ち込みはかなり多いと聞きます。
机の奥から発掘した、コンバーターも外れない年代不詳の万年筆でもOK?
診てくれます。私も20年前のものを持ち込んだことがあります。
私の場合はコンバーターをペンチでひっこぬていてから持ち込みました。しかしペンドクターさんによると、むしろ自分で無理に外そうとすると悪化するので、はずれないまま持ち込んだほうが良かったとのこと。
怪しいものを見つけたら自分ではいじらず、そのままペンクリへ持っていったほうがいいと思います。ご家族の遺品の万年筆を持ち込む方もいるそうです。
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