風景画スケッチを始めてから、早いもので5年が過ぎました。
絵のジャンルを問わず。長く描き続けていると、「もう絵を描くのやめようかな……」と悩む瞬間が一度はあるのではないでしょうか。
ある時はSNSで他人の絵と他人の絵を比べて落ち込み、時には仕事や家庭の問題で絵を描くどころではなくなることも。
私も父の認知症がひどくなってきたとき、「こんなメンタルぐちゃぐちゃ状態、自由時間も削られてる状態で絵を描くなんて無理だ」とモチベーションだだ下がりだった時期があります。
それでもどうにかこうにか、一度も挫折することなく描き続けてこられました。
この記事では、心と体を守りながら描き続ける4つのコツをご紹介します。末永くお絵かき活動を続けるためのヒントになれば幸いです。
コツその1:差別化でうまいか下手かという2択で絵を見られないようにする
見た目のうまさ以外の自分の特徴を示す
SNSには自分より絵が上手な人なんて星の数ほどいます。
そしてそんな人達と作品が並ぶのも日常茶飯事。現代のお絵描き活動は、ある意味他者と比較されやすい状況にあると言えます。
気にしないようにしようと思っても。どうしても人の作品が目にふれてしまって心が揺れたり、モチベーションが下がってしまったという方も多いのでは。
私もそんな経験がゼロじゃない、とは言えない……。
けれども、そんな心の闇に落ち込まない方法はあります。
例として。昔読んだ、とあるファンタジー小説にこんな話がありました(もう古い記憶なので一部曖昧ですが^^;)。
ある国の王にふたりの娘がいました。
妹の王女は好戦的かつ積極的な性格。父の注目をひこうと、宴の場で妖艶な舞を披露します。自分の方が何事にも臆さず、後継者として指名されるにふさわしいと誇示するためです。
そして、姉の王女にも踊るよう勧めます。これは奥手な姉の性格をよく知った上での提案でした。
妹と同じ舞を踊れば、嫌でも皆に比較され、自分の方が見劣りするのは明らか。そこで姉は一計を案じます。
あえて雰囲気の異なる、ゆったりとした清楚な舞を踊ったのです。
ふたりの王女の舞を見た宴の参加者たちは「どちらも甲乙つけがたい」とうなりました。この姉の機転に、彼女を後継者にと考えていた父王も満足しました。
絵の世界に置き換えるなら。絵は下手かもしれない、「けれども」と見た人に言わせられるだけの魅力を持つということになります。要は差別化です。
うまい下手以外の自分の絵の魅力ってなんだろう?
たとえば、あなたの絵を見てくれた人はこんな風に感じているかもしれません。
この人、絵は下手かもしれない。「けれども」、
- 見ていてほのぼのする絵を描く
- おもしろい画材の組み合わせ方をしている
- 心に残る風景を見つけるのがうまい
- 絵に対する独特の考え方が好き
- 絵の投稿の際にいつも映り込んでる猫がかわいい
- 絵を元に作ったミニ額シリーズが素敵 …など
差別化する部分はなんでもかまいません。
絵そのものである必要もありません。お絵描き活動に対する考え方、絵と一緒に投稿しているペットの写真などでもかまいません(世界一猫に愛されている画家、と名乗ればそれも差別化です)。
さらには唯一のものでなくてもかまいません(むしろ今の時代、小説でさえ話のパターンはもう出尽くしていると言われてます)。
あまり見ない組み合わせによるものでも十分。たとえば海外ではよく見るけど、日本でこれをやってる人はほとんどいない、というのも差別化です。
こうした広い目で眺めれば、なにか自分らしいユニークさ(あまり他者にはない独自性)がきっとひとつは見つかると思います。
こういったユニークさが傍から見えてこないと、単に「うまい、へた」で判断されてしまいます。
この痛みに耐えつつ、描き続ける人はもちろんいます。けれどもそれは、後年プロになった人など鋼のメンタルを持つ一部の強者のみ。
多くの人はその前に気持ちが折れてしまうと思います。
だからこそ、「自分の絵は下手だけど、これがある!」というものを見出すのが大事なんです。それがモチベーションにもつながります。
コツその2:毎日描かない自分を受け入れる。心身の健康を第一に
体の健康が絵を描き続けられる未来を作る
私も以前は、どちらかというと「毎日描いた方がいい」派でした。でもこの数年で考えを変えました。今は「毎日描かない」派です。
きっかけは生活環境の変化と中年になって体力が落ちてきたことでした。
現実の生活と照らし合わせると、「それは無理」と感じる場面が多くなったんですね。 特に父の認知症問題、自分自身の更年期における体調不良などが出てきてから、無理したくてもできなくなりました。
無理して毎日絵を描いたところで、翌日の仕事に影響が出る、数日間体調不良で過ごすとなっては意味がありません。
お絵かき活動は心と体が資本です。だから疲れているなら描かずに寝ます。朝も可能なら遅くまで寝てます。
特に風景画スケッチャーは健康第一。絵を描く時は外で立ちっぱなしになるので体力勝負です。
気晴らしでしんどいのはちょっと違う気がする
絵は毎日描いたほうが上達する。
それは風景画でもイラストでもあらゆるところで言われているので、知らない人はいないと思います。
もちろん漫画家などプロを目指す方は岩にかじりつくような思いで、そうしたノルマをこなしていく必要があるのかもしれません(心身を害するスポ根的な考え方は個人的に行き過ぎだとは思います)。
でもお絵描き人口の大多数は「気晴らしに楽しく絵を描きたい」と趣味でやってる人たちです。
今日はクタクタに疲れているけれど、がんばって散歩しなきゃ……。これもなんだか違和感はないですか。どうしてストレス解消するはずのもので、そんなに消耗しないといけないのでしょうか。
特にプロを目指すわけでもない趣味の人は「できないものはできない。それでも描き続けるには、どうしたらいいだろう?」って現実路線で考えたほうが長続きするし、モチベーションも保てると思うのです。
コツその3:描きたい気分の時にしか描かない。やる気の効率化
やる気は無限のパワーではない
もうひとつ、モチベーションを保つコツだと感じていることがあります。それは、描きたい時にしか描かないこと。
「毎日描かない上に、描きたい時にしか描かない? これじゃうまくなるわけがない」という声がどこかから聞こえそうな気がします^^;
毎日練習するな、意味がないとは言ってません。
ただそれは、「やろう! 今描きたくてたまらないぞ!」と強い意思があり、絵に対する探究心が湧いている時だけにしませんか、という提案です。
無限じゃないからこそ、使い道や使い時を少し戦略的に考えます。端的にいえば、描きたい気分の時しか描かないようにします。むしろ描かない日があることで、やる気は多少自然回復します。
やる気は絵を描いた時点で基本的には減ります。もし毎日絵を描いていたとすれば、毎日減っていきます。
毎日描いていてもなかなかやる気が減らない、モチベーションが高い人というのは世の中にいます。しかし大半の人は継続するうちに、ゆるやかにやる気が落ちていきます。
私たちは絵を描く以外にもさまざまな世界で生きています。また周囲に優しい人ばかりとは限らず、公平に扱ってもらえない不運な場面も多くあります。
やる気というのは絵に対しての限定ではなく、すべての生活シーンで使われるエネルギーです。
だから朝から課長に怒られて、さらには取引先でのプレゼンもうまくいかなかった。おまけに残業で友達との食事もドタキャンになってしまった。ーーもうこんな日は帰宅した時点でやる気はガタ落ち。また心とカラダは連動しているので、やる気がない日は体も疲れていることが多いです。
この時点から残りのやる気と体力を振り絞って絵を描くというのは、描くことに対する信仰のような強い意思がある一握りの人でないと困難かと。たとえそれが15分の練習だったとしても、もうほとんどの人はそんな気分じゃないと思います。
それでも無理をして描こうとした結果、やる気も体力も0どころかマイナスになってしまうことも。
やる気がマイナスになってしまうと回復まで時間がかかります。いっそのことしばらく期間をおいて描きたくなるまで待つか、人に絵を褒められるなどの臨時イベントによる回復を期待するくらいしかありません。
気持ちが乗っている時にやる気を注ぎ込む
毎日描かないことで節約してきたやる気は、心から「今描きたい!」と感じた場面で使います。
実はある程度の長い時間集中して絵を描くには、”お絵かき体力的なもの”が必要です。
絵を始めたばかりの初心者さんだと、短い時間しか集中が持たないことも。それでも貯めたやる気を使うようにすれば、1時間程度は描けたりします。
これは描く力を特定の機会に集中させることにもなります。そのためなのか、良作という意味では毎日目についたものをスケッチしているより、描きたいものを見つけた日だけ描くようにしたほうが当たりが多いです(個人的には)。
一期一会のタイミングをとらえると言ったらいいでしょうか。「今しか描けない!」という動機のもとに描かれた作品は、そうでない作品よりクオリティも一段上がる気がします。
私のスケッチサイクルはこんな感じで、描きたいものを見つけたら描く→待機(描きたいものとの出会いがない、または描きたい気持ちがない)、の繰り返しで構成されています。
コツその4:ライフスタイルに合わせて、描き方や取り組みを進化させる
自分を取り巻く環境を直視しよう。無理なものは無理
生き物は環境に合わせて、進化しなければ生き残れない。これは絵描きも同じだと思います。特に時間や体力に余裕がない人ほど、進化しないと描き続けることが難しい。
人間である絵描きにとっての環境とは、主に以下のようなもので構成されていると考えます。
- 家庭
- 職場
- 体調
- 住まい
- 使える時間
- 経済面 など
今の私は更年期であり、不眠症も抱えて体調が万全とはいえません。仕事はカスハラが当たり前の業界なので、認知症の父親と両サイドから暴言を浴びせられてメンタルもガリガリ削られる毎日です。
こうした環境を抱えて絵を描いています。これだけ色々あると、何も対策なしで絵描きとしての活動を続けるなんて不可能です。
だから、生き物のように進化しようと考えました。砂漠に暮らす生き物が、厳しい環境でも生き続けていけるように。環境のせいで挫折するのだけは勘弁だと思いました。
これは風景画スケッチャーの利点もあって。部屋の中で30分練習するより、外で一作描いたほうが何倍もの経験値と気づきを得られるんですね。
しかも、真夏と真冬は体力的に厳しいのでお絵描き活動そのものを休止しています(絵のグッズを作ったり、研究のために絵画教本を読んだりして過ごす)。単純に日数計算するなら、一年の半分さえ絵を描いているのか怪しいところです。
これほどゆるいお絵描きスパンでも。数年間続ければ、自分自身で手応えを感じたり、たまに絵のコメントをもらえる程度には上達していきます。毎日描かないという活動スタイルでも、趣味として楽しむのが目的なら十分です。
描き方や画材も工夫してみよう
忙しい生活の中絵を描き続けていくと。未完の作品がどんどんたまっていく、なかなか完成できずにイライラしてモチベーションダウン、なんてことも。
みんな生活の中でやりくりが苦しいのは当たり前。そこで諦めたら一人前の画家・絵師になれないだのうんぬん…なんて話をSNSで見かけても、気にする必要はありません。
ある意味根性と体力で現実をねじ曲げるより、心身に無理なく、でもモチベーションを保って描き続ける道を探すほうが難しいかもしれません。力技が使えないからです。
糸口となるのは、「短時間で一作仕上げられる方法を見出すこと」です。それもただ早く描けるだけではなく、「自分が納得できるクオリティ、好みの画風であるもの」を探す必要があります。
探すというよりは、ネットや本で見つけた情報を足がかりに、自分で作り上げるといった方が正しいかもしれません。
誰かの考えた方法というのは「その人にぴったりサイズの靴」です。長く使うほど違和感が出てくるので、自分なりのアレンジを加えていくことになると思います。
15分スケッチのような時短で描けるスタイルを学ぶ。もっと手早く広い面を塗れる画材を試す。たくさん使っていた色を陰影用の茶色一色のみにする。描く範囲を狭くする、など。方法は色々。
先日実験的に、手のひらサイズのスケッチブックを作ってみました。
試しに散歩で持ち歩くようにしてみたら。短時間で描き終わるし、 ポケットに入れてすぐ出し入れができるのでなかなか使い勝手がいいことがわかりました。
これも、がんばらないスケッチの一つの進化系ではないかと思います。
紙が大きいと描くのに時間がかかるから 、小さいスケッチブックを持つ。そうすれば短時間で描き終わるので時間の節約にもなる。立ちっぱなし(※私は野外スケッチでイスを使わない)における体力の消耗も防ぐことができる。
従来より少ない体力と時間で描けるので、 仕事終わりの後でも散歩のついでに描けるようになります。
最近の若い人はタイパに関心が強いとか。 タイパの考えに基づいて、毎日描かずとも効率よく上達できるお絵描き法はもっと研究されてもいいと思います(*^^*)
まとめ:毎日描かない勇気を持とう
毎日描かないことで、心と体を大切にしながら絵を描き続けることができます。
もちろん毎日描いている人より上達は遅れるでしょう。けれども生涯を通じてみれば、80歳になっても描き続けているのはあなたのほうかもしれません。
太く短くのタイプはどの世界でも早く終わってしまう傾向があります(そのまま突っ切る人もいますが一部の天才のみです)。細く長く、一生絵を描くことを続けたほうが人生豊かになるのではないでしょうか。
私は特に名前を残したい野望もないので、断然後者です。老後足腰が立たなくなって、それでも老人ホームで絵を描く日々を送れていたら素晴らしいと思います。
私にとって、描くことは散歩のような気晴らしです。だから心や身体がきついのハァハァしながらやる趣味はありません。ウサギとカメならカメの考え方です。焦らなくても歩みを止めない限り、いつかはゴールにたどりつく(時間はかかってもやめなければ必ず上達する)と信じてます。
でもSNSを見ていると、ウサギのように「急がなくちゃ、早くうまくならなくちゃ! 毎日描かなくちゃ!」と焦ってる人が多いように感じます。
描き続けるためには健全な肉体と健全な精神が必要です。だからこそ、焦らず自分のペースで、心と体を大切にしながら、楽しんで続けていきましょう。
描くことが楽しいと感じられれば、それが一番の上達の秘訣です。
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