スケッチ用万年筆へ求めた条件
風景スケッチで使用する万年筆は、当然のことながら外へ持ち出します。時には遠い旅先や国外へも連れていきます。
うっかり足元へ落としてしまうこともあるかもしれません。
これらを踏まえた上で、私はこんな条件で万年筆を探しました。
- 芸術的な加工やデザインが施されていないもの
- 落としても傷がつきにくい丈夫な材質のもの
- インクがたっぷり入る
芸術的な加工やデザインが施されていないもの
万年筆って、見るだけでうっとりするような華麗なデザインのものが多いです。
室内で使う分には問題ないのですが……。土埃が舞い、足元が悪い野外へ持ち出すとなると話は別。きれいなボディが汚れてしまうのが忍びなくて、スケッチ用万年筆の候補には入れませんでした。
市販のボールペンのようにシンプルなデザインのものがおすすめです。
落としても傷がつきにくい丈夫な材質のもの
いくら落とすまいと心がけていても。必ずいつかは万年筆を落とす日が来ます。
野外では片手に紙を持ち、片手でペンケースをごそごそしながら万年筆を出し入れ、なんて場面があります。
そんなときでも、ボディに強化素材(ポリカーボネートなど)が使われている万年筆だったら安心。
インクがたっぷり入る
家の中でさえ、万年筆のインク交換は手が汚れるなど、多少面倒だったりします。これが野外や旅先であればなおさらのこと。できれば避けたいところですよね。
それなら、元々たくさんインクが入る万年筆を使うのが一番。出発前にインクを入れたら、あとは帰宅するまで補充不要です。
インク容量は、メーカーサイトの各製品ページに出ています(カートリッジ式の場合はカードリッジの販売ページに出ていることも)。
容量が大きい万年筆であれば、換えインクの持参は不要。旅スケッチでもちょっぴり荷物が少なく済みます。
スケッチャーの間で定番の万年筆は?
日本では風景スケッチに万年筆を使っている人は少数派。そこで本場である海外サイトにて、情報を探ってみました。
まず画像検索で万年筆による作品を見つける→その人が使っている画材をチェック、という順で確認しました。
すると、ある万年筆の登場回数が多いのに気が付きました。それがLAMY(ラミー)のsafariシリーズです。
- 野外でも扱いやすいシンプルなボディ
- 初心者でも求めやすい低価格
- どこの都市でも手に入りやすい大手メーカーの製品
この3つがポイントではないかな、と個人的には感じました。
他には、近年新しく登場したTWSBI(ツイスビー)を使う人も増えているようでした。
ニブ(ペン先)の大きさはどうする?
同じメーカー、シリーズの万年筆でも。ニブの大きさが変われば、描き心地はもちろんんこと、描ける絵も変わってきます。
基本的には、太めを選ぶか、細めを選ぶかの2択で考えればいいかと。
- 万年筆らしい、キリッとした明瞭な線でスケッチしたい→中くらいから太めのニブを選ぶ
- 細かく描き込む、繊細なスケッチをしたい→日本製万年筆かつEF(極細)ニブを選ぶ
ミリペンのように細い線を描きたい、となれば日本製のEF一択だと思います。
普通の太さ以上となると、メーカーによって同じ「F」でも太さにばらつきがあります。あるメーカーの「F」で描いた線は太く、別メーカーの「F」はもう少し細いといった具合です。
このあたりは、ネットに投稿された実作から確認する(どの万年筆のどのニブを使用、と記載ししている方がいます)、メーカーサイトが紹介している筆記例を参考にする、といった曖昧な方法しかありません。
もし可能であれば、実店舗での試筆による確認がおすすめです。
私が選んだもの
私自身は、風景スケッチ用に2本の万年筆を購入しました。
最初に買ったのが、TWSBIのダイヤモンドミニAL。次に買ったのがパイロットのキャップレスデシモです。
どちらもニブはEF。けれどもそれぞれ特徴が異なります。
Twsbi:ダイヤモンドミニAL(EF)
タフでインク切れ知らず。野外における機動力が抜群。
※TWSBIは多くの色が在庫限りです。私が買ったシリーズも現在は取り扱いが減っています。そのため製品一覧をリンクしています。
購入の決め手となったポイント
- インクが大量に入る(吸引式を採用)
- とにかく丈夫
- 手にしっくりと馴染む重心と描き心地
実際使ってみてよかった点
- 何度か外で落としたけれど傷はつかなかった(一度はアスファルトにも落とした)
- 2・3泊の旅行へ連れて行っても、インク補給無しで過ごせた
旅スケッチのお供には最適の万年筆でした。太陽の光を受けて、キラキラと軸が輝くのも素敵。室内よりむしろ、お外が合う万年筆ではないでしょうか。
実際使ってみてイマイチだった点
- 分解・組み立ては想像以上に大変だった(年に一回、必要かどうかの作業だけれど)
- パーツのみの販売がない(たった1つのパーツ交換のために万年筆ごと台湾送りに)
なにかあったら本国送りというのは、他の海外メーカー万年筆でも同じなのかな? 万が一に備えて、スペア万年筆の用意が必要かも。
TWSBIを買うまでにすったもんだした経緯はこちら。
パイロット:キャップレスデシモ(EF)
インク容量に心もとない部分はあるものの、繊細な表現ならピカイチ。
たまたま参加したペンクリニックのドクターさんが、調整の待ち時間に試筆させてくれたのが出会い。「スケッチならこれもいいですよ~」と勧めてくれたうちの一本。
購入の決め手となったポイント
- TwsbiのEFでも不可能だった細線が描ける
- 超極細だけどニブの安定性が抜群。まったくブレない(ハッチングしやすい)
- 慣らしなしですぐ手に馴染んだ
この万年筆は、最初に上げた条件の多くを満たしていません。それでも選んだのは私の手と感覚へすぐに馴染んだから。ある意味、一目惚れ的に選んだと言えるかもしれません。
実際使ってみてよかった点
- TWSBIと組み合わせて使うことで表現の幅が広がった
- キャップレスという特殊な機構自体に芸術的な美しさがあり、テンションがあがる
元値はこのキャップレスデシモの方がTWSBIより上。そのためなのか、使っているとなんともいえない高級感を感じる瞬間があります。
実際使ってみてイマイチだった点
- やはりインク切れは早い(旅スケッチに連れて行くならインク瓶は必須)
- カリカリしすぎるせいか、TWSBIより筆圧が必要で手が疲れる(調整で変わるかも?)
TWSBIのインクドバドバで描ける感覚になれていたせいか。キャップレスのカリカリとした感触にはいまだなれない部分も。
力を抜きすぎると線が飛ぶので、結果としてTWSBIより筆圧をかけて描いています。もっともこれは極細ニブの宿命なのかもしれません。
実際のスケッチにおける万年筆の使い分け
太い線が描ける万年筆と細い線に強い万年筆。この2本を揃えておくと、バリエーションの広い作品が描けます。
TWSBI単体による作品
建物など、存在感がほしいモチーフ。短時間で仕上げたい時短スケッチの場面に向いています。
パイロット単体による作品
桜の木のような柔らかいものの表現に向いています。精密な描写が求められるモチーフ(ボタニカルアートなどの花絵、複雑な骨組みの建築物等)にも強いです。
2本の万年筆を組み合わせた時のそれぞれの使い所
線を主張したい場所、したくない場所を考えながら2本のうちどちらを使うかを決めます。そうやって分担をわけることで、絵にメリハリが生まれます。
また、太い線というのはそれだけで見る人の目をひいてしまいます。目線が行ってほしくない場所はパイロットで細線描画に。線の使い分けは目線の誘導にも役立ちます。
どんな線も描ける、万能ニブもあるけれど
線の太さが自由自在のフォルカン
キャップレスデシモに出会うきっかけになったペンクリニック。そこではパイロット社のフォルカンも試筆させてもらいました。
フォルカンとは、パイロット社の特殊ニブのことです。このニブがとにかくよくしなる……!
海外のアーバンスケッチャーでも、これ一本で作品を描いているという人がいました。
今私が持っている2本の万年筆、どちらもニブがあまりしなりません。
TWSBIはそもそもニブの素材が鉄なので物理的に無理。キャップレスデシモも超極細ニブなので厳しい。
つまり、線に強弱をつけにくいんですね。その意味では、このフォルカンやカリグラフィー向きニブの万年筆にちょっと興味はあります。もし3本目を買うならこの辺りかな。
特殊ニブは上級者向け
ただ、特殊ニブは使いこなせるまでかなり慣れが必要です。
私も試筆の場でやってみたものの、ざっくり線に強弱をつけるくらいしかできませんでした。「慣れるまでだいぶ時間がかかりそう…」というのが正直な感想です。
まずは普通の万年筆を使いこなせるようになって。それから初めて手に取る、上級者向けの筆記具。それが特殊ニブの万年筆だと思います。
いきなりこれを最初の一本にしてしまうと、かなり大変な事になってしまうかと……。
万年筆を選ぶ上で一番大切なこと
風景スケッチ用の万年筆を選ぼうと考えると、どうしても「丈夫」「インクたっぷり」といった機能面に目が行きがち。この点について、最後にちょっとだけ補足です。
もちろん、こういった機能面で「絞り込み」をかけるのはいいと思うんです。私自身、そうやって選びました。
自分の感覚に馴染む万年筆を見つけられると、手にしているだけで心地良いという感覚が生まれます。これは絵を描き続ける上で強いモチベーションとなります。
ランニングが趣味の人とか、この靴をはいて走るのが快感ってありませんか? あの感覚に近いです。
ぜひあなたの手と感覚にあった一本を見つけてみてくださいね。
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