作品ギャラリー最終更新 2024年9月25日

風景スケッチ用万年筆の選び方

目次

スケッチ用万年筆へ求めた条件

風景スケッチで使用する万年筆は、当然のことながら外へ持ち出します。時には遠い旅先や国外へも連れていきます。

うっかり足元へ落としてしまうこともあるかもしれません。

これらを踏まえた上で、私はこんな条件で万年筆を探しました。

  • 芸術的な加工やデザインが施されていないもの
  • 落としても傷がつきにくい丈夫な材質のもの
  • インクがたっぷり入る

芸術的な加工やデザインが施されていないもの

万年筆って、見るだけでうっとりするような華麗なデザインのものが多いです。

室内で使う分には問題ないのですが……。土埃が舞い、足元が悪い野外へ持ち出すとなると話は別。きれいなボディが汚れてしまうのが忍びなくて、スケッチ用万年筆の候補には入れませんでした。

市販のボールペンのようにシンプルなデザインのものがおすすめです。

落としても傷がつきにくい丈夫な材質のもの

いくら落とすまいと心がけていても。必ずいつかは万年筆を落とす日が来ます。

野外では片手に紙を持ち、片手でペンケースをごそごそしながら万年筆を出し入れ、なんて場面があります。

風が強かった、少し眼鏡が曇っていた、逆光がまぶしかった、寒くて指がかじかんでいた、など。ちょっとしたことで万年筆を取り落とします。

そんなときでも、ボディに強化素材(ポリカーボネートなど)が使われている万年筆だったら安心。

インクがたっぷり入る

家の中でさえ、万年筆のインク交換は手が汚れるなど、多少面倒だったりします。これが野外や旅先であればなおさらのこと。できれば避けたいところですよね。

それなら、元々たくさんインクが入る万年筆を使うのが一番。出発前にインクを入れたら、あとは帰宅するまで補充不要です。

インク容量は、メーカーサイトの各製品ページに出ています(カートリッジ式の場合はカードリッジの販売ページに出ていることも)。

容量が大きい万年筆であれば、換えインクの持参は不要。旅スケッチでもちょっぴり荷物が少なく済みます。

スケッチャーの間で定番の万年筆は?

日本では風景スケッチに万年筆を使っている人は少数派。そこで本場である海外サイトにて、情報を探ってみました。

Urban Sketcher(アーバンスケッチャー)という呼び名で、街や風景をスケッチする人々が大勢います。世界的な団体も存在します。

まず画像検索で万年筆による作品を見つける→その人が使っている画材をチェック、という順で確認しました。

すると、ある万年筆の登場回数が多いのに気が付きました。それがLAMY(ラミー)のsafariシリーズです。

  • 野外でも扱いやすいシンプルなボディ
  • 初心者でも求めやすい低価格
  • どこの都市でも手に入りやすい大手メーカーの製品

この3つがポイントではないかな、と個人的には感じました。

他には、近年新しく登場したTWSBI(ツイスビー)を使う人も増えているようでした。

注意:低価格万年筆について

数百円程度など、格安な万年筆も最近増えています。初心者の方に「安い万年筆はどうですか?」と聞かれたことがありますが、個人的にはおすすめしません。

一番の理由は品質にばらつきが大きいから。私も2本買ったものの、どんなインクでも詰まる(一度直してもらってもすぐ詰まった)など、トラブル続きで終わりました。

もちろん当たりもあるかと思いますが、ハズレを引く可能性も大きい。それなら最初から5千円前後以上の万年筆を買った方がお金を無駄にしないと思います。

ニブ(ペン先)の大きさはどうする?

同じメーカー、シリーズの万年筆でも。ニブの大きさが変われば、描き心地はもちろんんこと、描ける絵も変わってきます。

基本的には、太めを選ぶか、細めを選ぶかの2択で考えればいいかと。

  • 万年筆らしい、キリッとした明瞭な線でスケッチしたい→中くらいから太めのニブを選ぶ
  • 細かく描き込む、繊細なスケッチをしたい→日本製万年筆かつEF(極細)ニブを選ぶ

ミリペンのように細い線を描きたい、となれば日本製のEF一択だと思います。

普通の太さ以上となると、メーカーによって同じ「F」でも太さにばらつきがあります。あるメーカーの「F」で描いた線は太く、別メーカーの「F」はもう少し細いといった具合です。

このあたりは、ネットに投稿された実作から確認する(どの万年筆のどのニブを使用、と記載ししている方がいます)、メーカーサイトが紹介している筆記例を参考にする、といった曖昧な方法しかありません。

もし可能であれば、実店舗での試筆による確認がおすすめです。

私が選んだもの

私自身は、風景スケッチ用に2本の万年筆を購入しました。

最初に買ったのが、TWSBIのダイヤモンドミニAL。次に買ったのがパイロットのキャップレスデシモです。

どちらもニブはEF。けれどもそれぞれ特徴が異なります。

Twsbi:ダイヤモンドミニAL(EF)

タフでインク切れ知らず。野外における機動力が抜群。

※TWSBIは多くの色が在庫限りです。私が買ったシリーズも現在は取り扱いが減っています。そのため製品一覧をリンクしています。


購入の決め手となったポイント

  • インクが大量に入る(吸引式を採用)
  • とにかく丈夫
  • 手にしっくりと馴染む重心と描き心地

実際使ってみてよかった点

  • 何度か外で落としたけれど傷はつかなかった(一度はアスファルトにも落とした)
  • 2・3泊の旅行へ連れて行っても、インク補給無しで過ごせた

旅スケッチのお供には最適の万年筆でした。太陽の光を受けて、キラキラと軸が輝くのも素敵。室内よりむしろ、お外が合う万年筆ではないでしょうか。

実際使ってみてイマイチだった点

  • 分解・組み立ては想像以上に大変だった(年に一回、必要かどうかの作業だけれど)
  • パーツのみの販売がない(たった1つのパーツ交換のために万年筆ごと台湾送りに)

なにかあったら本国送りというのは、他の海外メーカー万年筆でも同じなのかな? 万が一に備えて、スペア万年筆の用意が必要かも。

TWSBIを買うまでにすったもんだした経緯はこちら。

パイロット:キャップレスデシモ(EF)

インク容量に心もとない部分はあるものの、繊細な表現ならピカイチ。

たまたま参加したペンクリニックのドクターさんが、調整の待ち時間に試筆させてくれたのが出会い。「スケッチならこれもいいですよ~」と勧めてくれたうちの一本。


購入の決め手となったポイント

  • TwsbiのEFでも不可能だった細線が描ける
  • 超極細だけどニブの安定性が抜群。まったくブレない(ハッチングしやすい)
  • 慣らしなしですぐ手に馴染んだ


この万年筆は、最初に上げた条件の多くを満たしていません。それでも選んだのは私の手と感覚へすぐに馴染んだから。ある意味、一目惚れ的に選んだと言えるかもしれません。

実際使ってみてよかった点

  • TWSBIと組み合わせて使うことで表現の幅が広がった
  • キャップレスという特殊な機構自体に芸術的な美しさがあり、テンションがあがる

元値はこのキャップレスデシモの方がTWSBIより上。そのためなのか、使っているとなんともいえない高級感を感じる瞬間があります。

実際使ってみてイマイチだった点

  • やはりインク切れは早い(旅スケッチに連れて行くならインク瓶は必須)
  • カリカリしすぎるせいか、TWSBIより筆圧が必要で手が疲れる(調整で変わるかも?)

TWSBIのインクドバドバで描ける感覚になれていたせいか。キャップレスのカリカリとした感触にはいまだなれない部分も。

力を抜きすぎると線が飛ぶので、結果としてTWSBIより筆圧をかけて描いています。もっともこれは極細ニブの宿命なのかもしれません。

実際のスケッチにおける万年筆の使い分け

太い線が描ける万年筆と細い線に強い万年筆。この2本を揃えておくと、バリエーションの広い作品が描けます。

TWSBI単体による作品

組み合わせる紙によって、かなり自己主張が強い表現も可能

建物など、存在感がほしいモチーフ。短時間で仕上げたい時短スケッチの場面に向いています。

パイロット単体による作品 

この繊細さは日本製万年筆のEFならでは

桜の木のような柔らかいものの表現に向いています。精密な描写が求められるモチーフ(ボタニカルアートなどの花絵、複雑な骨組みの建築物等)にも強いです。

2本の万年筆を組み合わせた時のそれぞれの使い所

それぞれの万年筆の強みを生かし、担当をわけています

線を主張したい場所、したくない場所を考えながら2本のうちどちらを使うかを決めます。そうやって分担をわけることで、絵にメリハリが生まれます。

また、太い線というのはそれだけで見る人の目をひいてしまいます。目線が行ってほしくない場所はパイロットで細線描画に。線の使い分けは目線の誘導にも役立ちます。

どんな線も描ける、万能ニブもあるけれど

線の太さが自由自在のフォルカン

キャップレスデシモに出会うきっかけになったペンクリニック。そこではパイロット社のフォルカンも試筆させてもらいました。

フォルカンとは、パイロット社の特殊ニブのことです。このニブがとにかくよくしなる……!

しなるとなにがいいかというと、筆圧で線の強弱を変えられるんです。太い線も細線も描けける。かつ描きながら強弱もつけられるという優れもの。

海外のアーバンスケッチャーでも、これ一本で作品を描いているという人がいました。

今私が持っている2本の万年筆、どちらもニブがあまりしなりません。

TWSBIはそもそもニブの素材が鉄なので物理的に無理。キャップレスデシモも超極細ニブなので厳しい。

つまり、線に強弱をつけにくいんですね。その意味では、このフォルカンやカリグラフィー向きニブの万年筆にちょっと興味はあります。もし3本目を買うならこの辺りかな。

特殊ニブは上級者向け

ただ、特殊ニブは使いこなせるまでかなり慣れが必要です。

私も試筆の場でやってみたものの、ざっくり線に強弱をつけるくらいしかできませんでした。「慣れるまでだいぶ時間がかかりそう…」というのが正直な感想です。

まずは普通の万年筆を使いこなせるようになって。それから初めて手に取る、上級者向けの筆記具。それが特殊ニブの万年筆だと思います。

いきなりこれを最初の一本にしてしまうと、かなり大変な事になってしまうかと……。

普通の万年筆ですら、初心者の方には慣れが必要です。最初は筆圧やペンの傾きがうまくコントロールできず、描いても線が出ない。かすれる、なんてこともざらです。

万年筆を選ぶ上で一番大切なこと

風景スケッチ用の万年筆を選ぼうと考えると、どうしても「丈夫」「インクたっぷり」といった機能面に目が行きがち。この点について、最後にちょっとだけ補足です。

もちろん、こういった機能面で「絞り込み」をかけるのはいいと思うんです。私自身、そうやって選びました。

でも最後にこの一本、と決めるときは。自分の感覚に馴染む筆記具であるか、というフィーリングで選んだ方がうまくいくと思います。

自分の感覚に馴染む万年筆を見つけられると、手にしているだけで心地良いという感覚が生まれます。これは絵を描き続ける上で強いモチベーションとなります。

ランニングが趣味の人とか、この靴をはいて走るのが快感ってありませんか? あの感覚に近いです。

いくらクチコミが良くても。憧れの絵描きさんが愛用しているものでも。自分自身で試してみてしっくりこない万年筆はおすすめできません。人それぞれ感覚が異なるからです。

ぜひあなたの手と感覚にあった一本を見つけてみてくださいね。

コメント

コメントする

目次